眠らせ森の恋
「お前、接客の仕事以外は、わりと完璧なんだが」
と言われ、わりと完璧という言葉もおかしいが、先輩としてなにか褒めなければと思って無理やり言ってくれたのだろうかと思う。

 いまどきの子は褒めなければすぐやめてしまうらしいから、職場の先輩たちも大変だと聞いたことがあるが、と思ってると、西和田は、

「ま、接客が苦手って秘書として致命的だよな」
と呟く。

 ……やはり褒められてはいないようだ、と思っていると、西和田が言ってきた。

「面接のときは良さそうに見えたんだろうな。
 落ち着いて見えるし、頭の回転は速いし、ルックスには申し分ないし」

 そこで、西和田は、一旦考え、
「面接のとき、パイプ椅子の周辺に物を置いておくべきだよな」
と言い出した。

「右向いたら、左の物を落としたりしないかどうか」

 粗忽者(そこつもの)かどうかも調べるべきだ、と言われてしまう。

 すみません。
 もう、いっそ、他の部署に飛ばしてください、と思っていると、頭になにかが当たった。

 かなり痛い。
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