眠らせ森の恋
「まだいろいろ残ってるだろ」

 でも、奏汰さんひとりを働かせるの、落ち着かないんだけどなーとちょっとソワソワしていると、奏汰はさっき、棚にしまったブランデーをまた取り出しながら、

「俺はお前にカクテルを作ってやるのが息抜きなんだ。

 こっちがなにかしてやりたいと思ったときには、黙ってしてもらっとけ。

 俺は、お前が美味しそうに呑んでくれれば、それでいい」
と言ってくる。

 そ、そういうものなのですか。
 ありがとうございます、と恐縮する。

 でも、確かになー。

 一生懸命作ったお料理を奏汰さんが美味しそうに食べてくれると、それだけで嬉しくなったりするもんなー、と思っているつぐみの目の前で、奏汰はさっきの卵に牛乳を混ぜ、火にかけていた。

 ホットミルクのような湯気がふわっと香る。

 落ち着くなあ、とつぐみは思った。

 学生時代、冬に家に帰って、リビングの扉を開けると、ストーブと夕餉ゆうげの匂いが部屋中に広がっていて、なんだか、ほっとしていた。

 あのときの感じに似ている。

「ミルクセーキみたいですね」
と白いミルクパンの中を覗き込みながら、つぐみは言った。
< 190 / 381 >

この作品をシェア

pagetop