眠らせ森の恋
「お弁当です」
と両手で差し出し、頭を下げる。

「お前……、なにかヤバイものを運んできた人みたいになってるぞ」
と言ったのだが、周囲を気にするつぐみは、誰か来る前にと思ったのか、人の話も聞かずに、ではっ、と去っていく。

 いや、お前、辺りを窺いすぎて、逆に目立っているが……。

 怪しいことこの上ないぞ、と思いながら見送る。

 まあ、見咎められたら、真実を話せばいいだけのことなのだが。

 よく考えたら、つぐみが婚約者であることを隠す理由は何処にもない。

 成り行きでそうなったが、とりあえず今、破談にしたいとは思っていないからだ。

 つぐみの方は知らないが――。

 お昼にはまだ時間があったが、なんとなく待ちきれず、そっと包みを解といて開けてみる。

 お、俺の好きな肉巻きおむすびだ。

 卵焼きもある。
 ミートボールも。

 子どもの好きなものが多いな。

 自分が好きな物入れただけなんじゃないのか?

 ……俺も好きだが。
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