眠らせ森の恋
 



 おお、なんか知らんが、お局その一を撃退している。

 ちょうど社長室に入るところだった奏汰は遠目に給湯室の方を見ながら思っていた。

 つぐみに言い負かされたらしい英里が怒っているんだか、首を傾げているんだかわからない顔で専務室に入って言った。

 恐らく、喧嘩を吹っかけてみたが、なんだかわからないうちに煙に巻かれたのだろう。

 西和田が、あれはちょっと只者ではない、とつぐみを評して言っていた。

『一見、おとなしげなお嬢様風で、扱いやすそうなんですけど、とんでもないですよ』
と。

 その一見、おとなしげなお嬢様風のつぐみは、特に自分に嫌がらせしてきた相手を追い払ってやったという風にもなく――

 もしや、気づいていないのだろうか。

 普段通りの顔で、とととっと給湯室に入っていった。

 普通に歩いているだけなのだが、なんとなく、動きがコミカルでおかしい。
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