眠らせ森の恋
 



「……いい。社長に殺されそうだから」

 そうつぐみに言って、西和田は給湯室から出て行った。

 廊下で英里に出くわす。

 あっ、西和田さんっ、と赤くなった英里を見、ま、これはこれで可愛いんだが、なにか違うんだよな、と思って見ていた。

 ちらとつぐみの居る給湯室を振り返る。

 つぐみは、いつも機嫌がいい。

 英里の嫌がらせも全く効力をなしておらず、英里の方が引きずられている感じだ。

 ああいう敵を作らないのが妻になったら、社長にとってもいい戦力になるだろうな。

 ああ見えて、人当たりもいいし。

 そう思いながらも、何故か専務に報告する気にはならなかった。

 専務がつぐみになにかするとも思えないのだが、なんとなく――。

「ねえ、あんた、今日、社食行く?」

 茶碗を片付けているつぐみに英里が訊いている声が聞こえてきた。
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