眠らせ森の恋
「俺が気に入らないのか」

「違います」
と言うと、意外そうな顔をする。

「社長のことは素敵な人だな、と思ってましたし。
 こうしていても、正直嫌じゃないです。

 でも、違うなって思うんです」

「何故だ?
 まさか、眠って目を覚ましたら、理想通りの王子様が現れるとか思ってるわけじゃあるまいな」

 その歳で、という口調で奏汰は言ってきた。

「そんな夢みたいなことあるとは思っていません」

 いや、もしかしたら、今がその状態なのかも、と思う。

 だからこそ、信じられないし、なんだか許せない。

「奏汰さんは、誰でもよかったんですよね?
 たまたまあの場に居て、白河さんと面識のない女なら」

 私ではない新人さんがあの場に居たとしても、きっと、奏汰さんは同じことをして、同じことを言って。

 もし、あのとき、自分がお茶を持って行かなかったら、今、此処でこうしていたのは、その子だったかもしれないのだ。

 そう思うと、なんだか悲しくなってくる。

 だが――
< 220 / 381 >

この作品をシェア

pagetop