眠らせ森の恋
「そうでもないぞ」
と奏汰は言ってきた。

「誰でもよかったわけじゃない。
 俺にも好みってものはある」

 お前は最初から俺の好みだ、と奏汰は言う。

「でも、あの瞬間まで、社長からなんのアプローチもありませんでしたが」

「好みだな、とは思っていた。
 だが、基本、秘書に対しては、そういう感情は抱かないことにしている」

 いろいろとめんどくさいことが生じるからな、と言う奏汰を、過去、生じたことがあるのだろうかな、と疑わしげに見てしまった。

 奏汰は天井を向き、目を閉じて。

「まあ、確かに、あのとき、あの場に居なかったら、声はかけてなかったかな、とは思う」

 そう言ってきた。

 そうですか、と少し寂しく言いかけると、こちらを向いて奏汰が言った。

「でも、俺はお前に声をかけた。
 それが運命ってやつだろ。

 なあ、キスしてみるか?」

 物のついでのように奏汰は言ってきた。

「け、結構です」

 慌てて、つぐみは逃げようとしたが、起き上がった奏汰に腕をつかまれる。
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