眠らせ森の恋
 黙って、その琥珀色の酒を見ていると、つぐみが、
「あっ。
 私の呑みかけ、嫌ですよねっ」
と言い出した。

「……莫迦か。
 恋人の呑みかけを呑まないとかいう男が居るか」

 え、いや、えーと……とつぐみは赤くなりながら、出した酒を引っ込めようとした。

 莫迦、そうじゃない、と思う。

 つぐみが口をつけたグラスを差し出されただけで、中高生のように動揺してしまっただけだ。

「……ありがとう」
と言い、一口もらう。

 グラスを受け取るとき、つぐみの指先が触れただけで、緊張してしまっていた。

 婚約者なのに。

 なんだか酒の味もよくわからない。

 つぐみにグラスを返すと、つぐみは機嫌よくそれを呑んだあとで、もう少し編んでいた。

 ……おい、お前は俺の呑みかけ、気にならないのか。

 そんなことを考えている間に、セーターは編み上がり、二人でアイロンをかけ、パーツをつなぎ合せる。
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