眠らせ森の恋

 



 西和田は、
「もしかして、秋名が編み物に夢中なのがお嫌だとか?」
と訊いたあと、

「そんなわけないだろ」
と素っ気なく言ってきた奏汰の顔を窺っていた。

 いやいや。
 そんなわけだろう、と西和田は思う。

 クールに振る舞っているが、秋名にメロメロじゃないか。

 なにがいいんだろうな。
 ずっと一緒に住んでいるのに、なにもさせない女の何処が、と思いながら、

「それで、出来たんですか? セーター」
と訊く。

「出来たぞ」
と奏汰はスーツをチラッとめくってみせる。

 今朝見たとき、いつもより体格がいい気がしたのだが、それは中にセーターを着込んでいるせいだったようだ。

 社長……まだ暑いです、セーター、と思ったのだが、なにやら嬉しそうだったので言わなかった。

 半分、自分で編んだセーターを嬉しそうに着る男。

「変わりましたね……、社長」

 そう思わず呟いていた。





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