眠らせ森の恋
 女の気持ちがちょっとわかった、と思っている間に、つぐみはそのまま、セーターを紙袋に突っ込んで持っていこうとする。

「待て。
 みんなにそれ見せて、そのあと、俺が着てたらまずいだろうがっ」
と言いながら、なにがまずいのかわからないなと思っていた。

 少なくとも自分の方には、つぐみと結婚することを隠す理由はないし、今更、この話を反故(ほご)にするつもりもなかった。

 そう。
 白河さんが元気になられても、破談にする気など毛頭なかったのだが、つぐみは、

「大丈夫です。
 スーツの下に着てもいいように薄くしてありますし、Vネックも深くしてありますから、見えませんってっ」
と言って強引にセーターを自分の手からかっさらい、出て行った。

 パタン、と閉まった扉を見ながら、誰が眠り姫だ……。

 可憐な姫どころか、十二時になったからと言って、実は借り物だった王冠と変なカボチャパンツと白いタイツを王子から奪って行く強欲な魔女のようだ、と思う。

 そのとき、スマホに着信があった。

「は、はい」
と服を剥ぎ取られて動揺したまま出る。
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