眠らせ森の恋
「あ、もしかして、どなたかうちに来られるとか?
 だったら、私、出かけてましょうか?」

 そう言いながら、うちって言っちゃったな、今、と思っていた。

 だが、奏汰はなにやら上の空のようだった。

「いや、いい。
 お前も居ろ」
という口調がなんだか聞くだけでテンションが下がる感じで不安になった。

 なにかありましたか? 奏汰さん。

 貴方が元気がないと調子が狂います、と思いながら、セーターを手に握っていると、それに気づいた奏汰が、

「貸せ」
と言ってきた。

「あの、みんなに褒められました。
 綺麗なとことそうじゃないとこがあるそうですが」
と言いながら差し出すと、そのときだけ少し笑っていた。

「もう戻れ。
 仕事はサボるなよ」
と言われ、はい、と湯呑みを持って社長室を後にした。




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