眠らせ森の恋
 頑張るな。
 ただ、置いてくればいいから。

 そう西和田の顔には書かれていた。

 この間、わずか一秒足らず。

 秘書はその場で口に出して言ってはまずいやり取りも多いので、アイコンタクトだけはこの半年で立派に使えるようになっていた。

 粗相が多いので、みなに目で訴えられることが多いから――

 というのも、その理由のひとつだが。

「失礼します」
と入ると、大きな窓を背に座る半田奏汰(はんだ かなた)は、頬杖をつき、スマホを片手に目を閉じていた。

 半田グループの会長の孫に当たる男で、まだ若く、古参の重役などからは、時折、小僧扱いされているが、なかなかの切れ者らしい。

 ……寝てらっしゃるのだろうかな。

 それにしても綺麗な顔だ、とつい、つぐみはマジマジと眺めてしまった。

 人の顔が整っているかどうかは、目を閉じているときにわかる気がする。

 愛想の良さや目力(めぢから)で、それらしく誤摩化すことが出来ないからだ。
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