眠らせ森の恋
 



 暑いな、と思いながらも、奏汰は家に帰ってもセーターを着ていた。

 脱ぐとなにやら不安になるからだ。

 セーターを着ているときだけ、つぐみがそこに居る感じがする。

 いや、実際、そこに居るのだが、と奏汰はキッチンを見た。

 だが、今、つぐみと目が合わせられない。

 白河さんがすっかり元気になられたことを言うべきか否か。

 言わない、という選択肢が自分にあることに驚きつつも、どうせ、すぐにつぐみの父親から伝わるだろうな、とは思っていた。

 料理を並べ終わったつぐみがこちらを見、
「奏汰さん、汗掻いてらっしゃいますよ。ご自分が作られてお気に召されてるのかもしれませんが、かえって冷えてしまいますよ」
と言ってくる。

 何処かずれてるな……と奏汰は思っていた。

 俺が編んだからじゃなくて、お前が編んだから、着てるんだろうが。

 だが、確かに、それを口に出したことはなかったな、と思っていた。
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