眠らせ森の恋
 



 結婚ね……。
 家に帰ったつぐみは淡いピンクのクッションを抱いて転がる。

 よくわからないけど、恐らく、白河さんの状態が安定するまで、そういうフリをしておけと言うことだろうな。

 あの社長が本気で私なんぞと結婚するとは思えないしな、と思っていると、電話が鳴った。母親だった。

『大丈夫? つぐみ。
 なにか変わったことはない?』

 家を出てから、母、小枝子(さえこ)は、いつもこう言って、このくらいの時間に電話をかけてくる。

「ないよ」
といつもの癖で、反射的に言ったあとで、いや……いっぱいあったな、と気がついたのだが。

 母親に話すのもなんだか抵抗がある話ばかりだったので、そのまま、小枝子が語る、弟の話と、近所の猫の話を聞いていた。

 だが、途中で話がぶつりと切れたと思ったら、
『あら、貴方』
という声が聞こえてきた。

『その電話、つぐみか』
と父、雅広(まさひろ)の声がする。

『どういうことだ、つぐみ』
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