眠らせ森の恋
　電話を父親に取ってかわられたようだ、と思っていると、
『お前、結婚するそうだな』
と相変わらずのドスのきいた声で言ってくる。

　会社の社長というより、違う職業の方のような迫力だ。

　まあ、社長というのは、このくらい威圧的ででなければ勤まらない仕事なのかもしれないが。

　でも、うちの社長、此処までじゃないよな、と思いながらも、何故、その話を？　と固まっていると、雅広は、

『白河さんからご連絡があったぞ』
と言う。

　え？　白河さん？

『お前、半田の息子さんと結婚するそうだな。

　お前が今、勤めてる会社の社長だろう。

　お前、偉そうなことを行って、見合いを断ったくせに、結局、男を探しに会社に行ってたのか』
と突然、会社に勤めるものの心構えについて、説教が始まる。

　これ、なんの電話だったっけな？　と思った頃、ようやく、小枝子が、かわってかわって、と言い始めた。

　まあ、あまり早くても、罵り足らない父親はおさまらないだろうし。

　そこは、さすがに夫婦。

　絶妙のタイミングで声をかけたようだった。
< 33 / 381 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop