眠らせ森の恋
 なにもさせてはくれないのにな、と奏汰が言うと、英里が、
「……あんた社長になにさせてんのよ。

 っていうか、なにしてたのよ。
 一服盛ってたの?」
と訊いてくる。

「まあ、いい会合だったんじゃないですか」

 いきなり、真後ろで声がして、うわっとつぐみたちは振り向く。

 専務が立っていた。

「社長は今まで隙がなさ過ぎて。
 常に上から物を言ってくるし。

 形だけ頭を下げても、下げてる感じなかったし」
と笑った顔のまま専務は言う。

 奏汰さん……。
 専務にまでそうだったんですね、と思いながら、つぐみは聞いていた。

「今日は会議としてはどうかと思いますが、初めて社長の人間味が見えてよかったんじゃないですか?」

 幾ら仕事が出来ても、隙のない、機械みたいな人間じゃ、応援しようという気にならない、と言う。

「そこのお嬢さんの言う通りですよ。
 考えてみれば、いいところもないでもないでもない」

 奏汰はその程度なんですか、という顔をしていたが、専務は、ははは、と笑う。
< 331 / 381 >

この作品をシェア

pagetop