眠らせ森の恋
 



「そうだ、奏汰さん。
 今日は私がカクテル作ってもいいですか?」
と言うと、奏汰は、ほう、という顔をする。

 だが、自分でも、おおっ、と思っていることがあった。

 いつの間にか、自然に、社長を名前で呼べている!

 ともに困難を乗り越えたからだろうか?

 ……いや、よく考えたら、ただ風邪を滅多にひかない人がひいたので、大騒ぎになっただけだが。

 前兆はあったんじゃないかと思うのに、自分は風邪なんかひかないと思ってるから対処が遅れたんだな、と思いながら、ダーク・ラムの瓶と角砂糖とバターを取り出した。

 初カクテルですっ、と気合を入れて、ホットグラスに角砂糖を落とし、少量のお湯をそそぐ。

 奏汰もカウンターの向こう側から、何故か息を詰めて見守っていた。

 まるで、初めて歩き出した子どもがよろけて座りこまないかを見張るように。

 ラムをそそぎ、熱湯を入れ、軽く混ぜたあとで、バターを浮かせる。

「……出来ましたっ」

 何十年と心血そそいだ芸術作品が出来上がったかのように言い、つぐみは顔を上げた。

 いや、あんた、そそいで混ぜただけだろと言われそうだが……。
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