眠らせ森の恋
「秋名」

 はいっ、と駆け寄ると、西和田はこちらを見ずに、
「これを」
と言いながら、バインダーを突き出してきた。

「うっ……」

「これを総務に。

 ……なにが起こった? 今の間に」
と西和田は言ってくる。

 つぐみが腹を押さえて、前屈みになっていたからだ。

 つぐみは西和田に近づきすぎており、西和田は西和田で、つぐみの方を見ていなかったので、突き出したバインダーが腹に刺さったのだ。

「なにをどうしたら、そうなる……」


 避けろ、大人なら、と刺しておいて西和田は言う。

 いたたた、とつぐみは腹を押さえたまま、謝まった。

「すみません~」

 よく考えたら、なんで刺された私が謝ってんだ?
と思わなくもなかったのだが。

 そのとき、西和田がなにかを感じたように顔を上げた。

 いつの間にか、室長のところに、奏汰が来ていたようだった。
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