眠らせ森の恋
 こういう場合、そうっと置いて帰ったんでいいんですか? 西和田さんっ。

 それとも、冷めるから持って帰るべきなんですかっ? 西和田さんっ。

 助けて、西和田さんっ、と振り返ってみたが、二枚の板チョコにも見える社長室の焦茶の扉は、ぴたりと閉ざされていた。

 と、とりあえず、置いて帰ろう。

 つぐみは、そっと珈琲を大きなデスクの端に置こうとしたが、カチャリと音を立ててしまい、ひっ、と息を呑む。

 寝ている社長を起こしたら、成敗されるっ、と思ってしまったからだ。

 だが、頬杖をついたまま、片目を開けた奏汰は、
「寝てない」
と短く言ってきた。

 そして、つぐみを見、
「おい、秘書」
と呼んでくる。

 いや、名前覚えてください、と思ったのだが、秘書室の数居る秘書の中でも、まだ配属も決まっていない自分のことなど覚えていなくて当然か、とも思っていた。
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