眠らせ森の恋
 



 なんだかわからないまま、奏汰に丸め込まれ、またふらついて奥の院から出ていくと、社長室に入ってすぐのところにある秘書用のデスクで書類をまとめていた西和田が、顔を上げ、

「どうした?」
と訊いてきた。

 つぐみは、よろりと彼の向いのデスクに手をかけ、言った。

「もう駄目です。
 私の人生終わりました。キズモノです」

 だが、西和田は、
「別にいいじゃないか。
 社長に傷物にされるんなら、責任取ってくれるだろ」
と軽く言ってくる。

「いや、そういう問題じゃ……。
 っていうか、あれ、責任取る気あるんでしょうかね?」
となにをされたわけでもないが、既に人生に傷がついた気がして、そう訊いてしまう。

 今まで、誰かと付き合うでもなく、堅実に、というか、ぼうっと生きてきたのに、突然、何故、こんなことに、と思っていたからだ。
< 40 / 381 >

この作品をシェア

pagetop