眠らせ森の恋
 




 つぐみが秘書室に戻り、自分のデスクで仕事をしていると、いきなり英里がやって来て、側に立った。

「なにあんた度々、社長と西和田さんに呼ばれてんのよ」
と言ってくる。

 今、この書類は打てないな、と思い、つぐみは打ちかけた書類をそっと伏せた。

 西和田がお前の打っている書類は人には見せるな、と常々、言っているからだ。

 幸い、まだ画面には打ち出してはいなかった。

「いや、西和田さんは関係ないじゃないですか。
 あの人、ただ、社長に言われて呼びにくるだけの人ですから」
と今、席を外している西和田のことを言うと、今度は、

「あんた、秘書室のホープを小間使いみたいに」
と文句を言ってくる。

 えーと、この人、どうしたら……? と思っていると、ちょうど西和田が戻ってきた。

 こちらをチラと見て、
「田宮。
 秋名の邪魔をするな」
と言う。

 はい、と言った英里がしゅんとする。
< 42 / 381 >

この作品をシェア

pagetop