(完)最後の君に、輝く色を




夏実へ



元気か?
約束守らなくてごめんな。
だけど、もう一度夏実にあってしまったら決意が揺らいでしまうと思ってそうした。
本当にごめん。


もうきっと知ってるんだろうけど、
俺は生まれつき心臓が悪くて、ずっと病院生活を送ってきた。


小さい頃は、絶対病気を治して、学校に行ったりスポーツをしようって息巻いてた。


だけど小学3年生の時、大きな発作を起こして一週間生死の狭間にいて、それから俺は希望を持つことをやめた。


俺がどんなに神様に願ったって、この病気は良くならないし、何の夢も叶わない。


期待して裏切れるくらいなら、初めから期待なんかしなきゃいい。


どんどん卑屈になって行った。


俺の入院費のせいで、相当苦労している両親に当たったり、医者に反抗したり。


自暴自棄になって、誰も信じられなかった。


もう俺は死んでるも同然だった。



中2になってすぐ、手術を提案された。


だけど、成功率はほんのわずかだった。


手術するべきだって頭の中ではわかってた。


こんな苦しみと一生付き合っていくくらいなら、大きな賭けでもしてみるべきだってこと。


だけど、もし失敗して死んだら、俺は何のために生まれてきたんだろうって不意に思った。


学校に行って勉強することも、
友達を作ることも、
好きな人ができることも、
部活をすることも、
受験をすることも、
美味しいものを食べることも、
買い物に行くことも、
結婚することも、
新しい家族ができることも、



普通の人間が経験する当たり前のことを一つも出来ずに死んでいくのかと思ったら、


怖くなった。


それを医者に言ってみたら、一度学校に行ってみてはどうかと誘われた。


その時、俺の体調は今まで生きてみていちばんくらいに調子が良くて、一ヶ月ほどなら保健室登校をできると言われた。


従ってみたけれど、保健室に登校したって中学校に登校してる気にはなれなかった。


好奇の目で見られるのがわかっているのに、わざわざ生徒と関わりたくもなかった。


京子のように笑顔にはなれなかった。


このまま結局何の決断もしないまま俺の学校生活は終わるんだと思ってた。


あの日、先生から屋上に行ってみてはどうかと言われて、なんとなく登った日までは。


お前に出会った日までは。


俺の心の中を見透かすように話すお前が、
俺の欲しかった生活を当たり前に送りながら弱音ばかり吐くお前が初めは嫌いだった。


だけどいつのまにか、
弱いくせに必死に強がって、
弱音は吐いても不平不満を吐かないお前を尊敬していた。


俺とは違う意味で必死に生きてるお前に惹かれて行った。


お前に怒鳴ってしまったあの日、俺は久しぶりに発作を起こして運ばれた。


もう学校に行くなと言われたけど、どうしてももう一度お前に会ってから決断したくて会いにきた。


夏実が俺が今"此処"にいるって言ってくれた時、本当に俺は嬉しかった。



俺が生きていることを認めてくれているんだってそう思えた。



そして、初めて強く思えたんだ。




もっと生きていたい。
お前の笑顔をこれからもみていたい。



そう思えたんだ。



必ず、病気を治してみせる。


死んだりするもんか。




もう一度、お前の前に戻ってくる。



だから、どうか待っててほしい。



その時、あの時の約束を果たすから。



絶対に生きて帰ってくる。




納戸飛鳥
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