琥珀の奇蹟-WOMEN-
柚希①
喫茶『琥珀堂』

駅近の路地裏にあるこのお店は、マスターの趣味で集められた、センスの良いアンティーク家具で囲まれた、大人の隠れ家的カフェ。

柔らかな革張りのソファは、一度座ったらあまりの心地良さに、長居してしまうこと必至。

マスターもそれを承知で、お店の飲み物はどれも2杯目以降は半額という、事実上長時間の滞在を暗黙の了解としている節もある。

いつだったか店のマスターが、一見外観から高級そうなイメージがするのか、気軽に入ってくる客は少ないけれど、一度来店すると、リピートする客は多いのだと話していた。

それも、時間が止まったような、このノスタルジックな空間の持つ、独特な居心地の良さが要因かもしれない。

店内には、自分も含めて、客は3人。
私以外は、皆、初老の男性。
それぞれ、お一人様で、思い思いの時間を過ごしている。

静かに流れる、アコースティックサウンドは、耳に心地よく響く。

何気なく窓の外を眺めると、路地の先に見える歩道は、街路樹に施された煌びやかなイルミネーションの下、師走らしく、世話しなく行き交う人の流れ。

今日がクリスマスだからか、平日にも関わらず、心なしか家族連れや恋人達の姿が目立つ。

ここに来る前に購入した雑誌をパタリと閉じて、すっかり冷めきったカフェオレを飲み干し、壁にかかった古い柱時計をチラリと見る。

午後7時20分。
既にお店に入ってから、1時間近くが経っていた。
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