琥珀の奇蹟-WOMEN-
びっくりして、持っていたケトルを流し台に落とすも、幸い中身はもう空っぽだったので、湯がこぼれることはなかった。
『…隆弘?』
振り返ろうにも、思いのほか強く抱きしめられて、身動きができない。
しかもこの温かい部屋に入ってからだいぶ時間が経つているにもかかわらず、身にまとうスーツはまだ幾分冷たく、どれだけこの寒空の中にいたのだろうか…。
『ちょっと、苦しいよ?離して…』
”離して”と言っているのに、尚のこと抱きしめる手に力を込める。
それはまるで、手放したくないというように…。
『…柚希』
耳元で、低くささやかれた言葉は、私の名前。
『今日は悪かった』
私の肩に隆弘の髪が触れ、零れた声と一緒に熱い息が私の首元にかかり、くすぐったい。
『…仕事でしょう?仕方ないよ』
『いや、今日だけじゃない。最近、いつもお前を待たせてる』
『もしかして気にしてくれたの?』
『…』
返事の代わりに、またギュッと力を込められる。