琥珀の奇蹟-WOMEN-

『もしもし?』
『柚希か』

少し慌てたような、隆弘の声が私の名を呼ぶ。

『うん』
『ごめん、連絡が遅くなった…まだ、琥珀堂?』
『そうだけど』
『なら良かった』

隆弘がホッとしたのが、手に取るようにわかった。
瞬間、人を待たせておいて、何が”良かった”のだろう?と、ムッとするも口には出さない。

『どうかしたの?』
『ああ、ちょっと仕事でトラブってな…悪いけど、今日の食事、行かれそうにない』
『え』
『店、今からキャンセルできるかな?』
『…お店は、席しか取ってないから、大丈夫だと思うけど…』

そう答えた電話の向こう側で「主任、佐藤様から電話入ってます」と、女性の声。即座に、「すぐ出るから、俺のデスクに廻しといて」と、答える隆弘。
ざわざわとした職場の、錯綜している状況が伝わってきて、どうやら仕事のトラブルは本当のようだった。

『ごめんな。この埋め合わせは、また今度…』
『…うん、わかってる。お店、こっちでキャンセルしておくから、気にしないで』
『悪いな、じゃあ』
『あ、隆弘』
『ん?』
『仕事、無理しないでね』
『ああサンキュ』

電話を切り、小さく溜息をつくと、直ぐに席を立ち、カウンターに向かう。
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