クリスマスの夜にわかったこと
もう至近距離なので声は出さず気配は消して。今年も相変わらずの形相で眠る店長の近くに立つ。
毎年どおりに手を伸ばす――だけでなく、わたしは、眠る店長の傍らに膝をつき、目線の高さを合わせてみた。初の試みだ。
相変わらずの眉間がより鮮明に陰影を描く。
いつだったか、もう少し楽になってくれないだろうかと、マッサージ的な動きを加えようと試みた年もある。
けれど結局は変わることないわたしの指先の力加減は、七年目の今年も同じだった。
店長の眉間の皺が、触れた途端に緩くなっていく。それを昨年までよりも近くで感じて、わたしの口元もより緩む。
また今年も微力ながら役立てただろうかと指先を眉間から離した。
役立てたかなんて、なんて身勝手極まりない言い草。
そんなこと、とうの昔にわかっている。けれどもわたしは何故、毎年毎年。こんなクリスマスの夜に……。
「……、」
何か、答えが導きだせそうな気がした。
「――もう、終わりか?」
「っ!?」
けれど、聞こえるはずのなかったわたし以外の声に心底驚いてしまい、それらは霧散した。
「もう、終わり?」
再度問われる。
まだ膝をついたままのわたしと同じ高さの視線の先、すぐ傍に、その声の主は目を覚ましていた。
店長だ。もちろん。声の主は。
わたし以外にその人しかいないときを、毎年毎年見計らっていた時間なのだから。
もう離れてしまったわたしの手は、情けなく力なく自分の身体の横にぶら下がっているだけ。動けない。それを目線だけ動かして確認した店長は、もう一度目を閉じてしまった。