クリスマスの夜にわかったこと

 
 もう至近距離なので声は出さず気配は消して。今年も相変わらずの形相で眠る店長の近くに立つ。


 毎年どおりに手を伸ばす――だけでなく、わたしは、眠る店長の傍らに膝をつき、目線の高さを合わせてみた。初の試みだ。
 相変わらずの眉間がより鮮明に陰影を描く。


 いつだったか、もう少し楽になってくれないだろうかと、マッサージ的な動きを加えようと試みた年もある。
 けれど結局は変わることないわたしの指先の力加減は、七年目の今年も同じだった。


 店長の眉間の皺が、触れた途端に緩くなっていく。それを昨年までよりも近くで感じて、わたしの口元もより緩む。
 また今年も微力ながら役立てただろうかと指先を眉間から離した。


 役立てたかなんて、なんて身勝手極まりない言い草。
 そんなこと、とうの昔にわかっている。けれどもわたしは何故、毎年毎年。こんなクリスマスの夜に……。


「……、」


 何か、答えが導きだせそうな気がした。


「――もう、終わりか?」


「っ!?」


 けれど、聞こえるはずのなかったわたし以外の声に心底驚いてしまい、それらは霧散した。


「もう、終わり?」


 再度問われる。


 まだ膝をついたままのわたしと同じ高さの視線の先、すぐ傍に、その声の主は目を覚ましていた。
店長だ。もちろん。声の主は。
 わたし以外にその人しかいないときを、毎年毎年見計らっていた時間なのだから。


 もう離れてしまったわたしの手は、情けなく力なく自分の身体の横にぶら下がっているだけ。動けない。それを目線だけ動かして確認した店長は、もう一度目を閉じてしまった。


< 4 / 6 >

この作品をシェア

pagetop