クリスマスの夜にわかったこと
好き、だけど、好きなのはケーキだけじゃないと、ようやく導き出せた。
わたしが何年もこうしていた理由。
いつもより饒舌だった店長は、それ以上は口をつぐみ、問うてもくれなくなった。こちらに向けられていた顔は、作業台に伏せてしまい見えなくなる。
嫌だ。寂しい。
思った瞬間に声にしていた。
「どうやら、店長のことが好きだから、こうして毎年、触れていたみたいです」
「っ、……どうやら……みたい、って……」
「すみません。今、気付いたもので」
良かったと、起きているときにも触れ合いたいと焦れて良かったと、こんな行動を起こしてセクハラだとか訴えられなくて良かったと、諦めなくて良かったと――店長は作業台におでこをぶつけながら言っていた。
けれどこちらを見てくれる気はないらしい。
己の気持ちに気付いたばかりのわたしは、突然見つめられすぎても困ると思いながらも、けれど両想いらしいということも実感したくて。
「指、もう冷たくなってしまいましたけど」
起きているのに抵抗など全くしない好きな人の眉間に触れ、ぐりぐりとマッサージ的なことをしてみた。抵抗など全くされないものだから、頬や耳朶にも行為は侵食していく。
いつしか、指だけでなくわたしの手のひら全部で触れていた。
想いが通じ、そうして合わさるということの奇跡を噛みしめながら、好きな人と意識をしての"こういうこと"に、気持ちの何処かがせり上がり、なんだか涙が潤みはじめる。
恥ずかしいけど、ずっと味わっていたい感情だ。
やがてわたしの手の甲の側は、店長の大きな手のひらに包まれていた。パティシエらしい甘い匂いにも満たされ、なんだか夢みたい。
クリスマスももうすぐ終わる凍える夜だったけれど、感じた体温はどちらのものもとても熱くて、とても離れ難かった。
――END――