過保護な御曹司とスイートライフ
女性は、成宮さんのスーツの肘のあたりを掴んでいた。
明るい茶髪の髪は胸元くらいまで長さがあり、ふわふわしたウェーブがかかっている。
「あの時、一緒に飲んでたのも仕事上の付き合いがある人なの。強引に誘われて仕方なく……。もう、本当、面倒くさくて嫌になっちゃう。成宮さんも、そうでしょう? 気持ち、よくわかる」
膝上の短いショートパンツ姿の女性が、成宮さんを見上げる。
遠目からでも熱のこもった眼差しだとわかった。
「あの時、私が〝本気じゃない〟なんて言ったから怒ったんでしょう?」
今までの話を聞いて、ああ、そうかと気付く。
彼女は、いつだったか慶介さんが言っていた女性だ。
『少し前だけど、取引先の娘が近づいてきてさ。あまりに好き好き言ってくるからアッキーも真面目に返事をしようとしてたみたいなんだけど。でも、その子が他の男と飲んでる席にたまたま居合わせちゃったんだよね。その子〝本気にしててウケる〟ってアッキーのこと言ってて頭にきた』
『俺もどうにもイライラしてダメだったから、あとでその子問い詰めたんだよ。そしたら、アッキーに近づいたのは、自分に惚れさせとけば仕事上、有利に事が進むんじゃないかって思ったからだったんだって。でも、アッキーは公私割り切るから、その子の思い通りにはならなくて、それにイラついてアッキーの悪口言ってたみたいだけど』
成宮さんを傷つけた人だ――。
見つめている先で、女性が口を開く。
「成宮さんが見たことは、私の本心じゃないし誤解なの。どうしても、成宮さんにそれを伝えたかったの」
女性の目元に、じっとりと重たい色気が漂う。
ピンク色のリップが塗られた唇は弧を描き、成宮さんを誘っているようで……胸の奥がざわっと騒ぎ出す。
成宮さんはなにも言わず、興味なさそうに女性を眺め……しばらくそうしたあと、女性に「まだ怒ってる?」と問われ、ようやく返事を口にする。