過保護な御曹司とスイートライフ
「……ありがとうございます」
「あれ……なんだよ。荷物重たくなりそうなときは言えって言ってんのに」
「じゃがいもが安かったので。でも、これくらいなら余裕ですから」
私からスーパーの袋を奪った成宮さんが、袋の中を見ながら「へー、じゃがいもでなに作んの?」と聞く。
「ジャーマンポテトかポテトサラダですかね」
「うまそー」
明るい笑みで言う成宮さんに、思わず私も同じ顔をしてからハッとする。
こんな呑気な会話をしている場合じゃないことに気付いて。
だって女性はまだそこにいるし、しかもさっきまでとは違って睨むようにこちらを見ている。
だから、成宮さんのスーツの裾をくいくいと引っ張ってそれを伝えると、女性が気に入らなそうに笑みを吐きだした。
馬鹿にしたような笑みは、成宮さんではなく私に向けられている気がするのだけど……気のせいだろうか。
「成宮さん。いくらなんでもこんな子と付き合ったりしてないですよね? 周りに同情されますよ」
鼻で笑われ、ああ、やっぱり気のせいじゃなかったんだなと思う。
しっかり私を見て薄笑いを浮かべていたらしかった。
「家事させてるだけとか、都合よく使ってるっていうなら納得もできますけどね。でも、それならそれでもう少し線引きしないと、こちらの方も勘違いしてあとでツラい思いしちゃうんじゃないですか? 使用人なら使用人として扱わないと」
クスリ、と嫌な笑みを落とされ、わずかにムッとしていたとき。
「……は?」と、地を這うような低い声が聞こえ、耳を疑う。
隣を見上げると、成宮さんのものとは思えないような怖い顔つきがそこにあって、息を呑んでしまう。
「もう一度言ってみろ。こいつのこと、なんて言った?」
いつだって明るい表情を浮かべている人だから、こんな顔を見るのは初めてだった。
嫌悪感や苛立ちを隠さない態度に、思わず言葉を失ってからそっとその腕に触れた。
そして、私を見た瞳にひとつ微笑みを向けてから、女性に視線を移し話しかける。
成宮さんの声や顔に怯えている様子だった。