過保護な御曹司とスイートライフ
「たしかに私は普通ですし地味ですが。その前に、もしも私がどこぞの社長令嬢だった場合、あなたの発言が原因でお父様の会社がどうにかなる、とか考えないんでしょうか」
私を見た女性は、ようやくその可能性に気付いたようにギクッとした顔つきになる。
さっき、仕事上の付き合いがあって面倒くさいとか言っていたのに……悔しさのあまり、そういうところには頭が回らなかったのだろうか。
「私は性格が悪いので、あんな風に馬鹿にされたことに怒り心頭して、あなたのお父様の会社を調べ上げて冷酷なまでにグリグリつぶしますけど、いいですか? 思いっ切り公私混同しますけど」
聞くと、女性は「え……」と言葉を詰まらせる。
きっと、今、頭の中では色んな会社の名前がぐるぐると回っているんだろう。
もちろん、うちの父親の会社にそんな力はないけれど……この人は少し懲りた方がいい、と思い続ける。
だって……許せない。
「もう少し、ご自身の言動に責任を持った方がいいですよ。成宮さんみたいに許してくれる人ばかりじゃありませんし、正直、私はあなたが成宮さんにしたことに結構腹が立ってます」
私を見下した発言ならまだ聞き流せる。
でも、成宮さんを馬鹿にするのは許せない。
成宮さんは自分のためには怒らない人だから、余計に。
私のことを、一体どこの会社の社長令嬢なんだかわからずにただ青くなっている女性に、なんとか微笑んでみせる。
「成宮さんは、平気な顔してますけど。たぶん、一時は傷ついたハズです。こんな優しい人を、軽はずみな行為で傷つけないでください」
最後に「お願いします」と頭を下げる。
すると女性はしばらく黙っていたけれど、そのうちに「どうせもう会わないし」と吐き捨てるように言い、足早にマンションを離れて行った。