過保護な御曹司とスイートライフ
「ないんだよ、きっと。だって見るからに仕事できなそうだしね。片付けは次、鈴村さんか。可哀想に……ドンマイ!」
肩をポンと叩かれ、ひとつため息をつく。
あの人に言われることをあまり気にしないようにはしていても、やっぱりいい気持ちではないし。
「矢田さん。さっきの話ですけど。同棲じゃなくて同居です。私はただ、副社長の善意に甘えて一緒に住まわせていただいてるだけですから」
そこだけはきちんと否定しておかないと。変な噂が立ってしまったら成宮さんの迷惑になってしまう。……まぁ、若干今さら感はあるけれど。
そう思い言うと、矢田さんは「そうなの?」と目を見開く。
でもすぐに呆れ笑いのようなものを浮かべた。
「いや、仲良く夕飯の相談しておきながら〝同棲じゃなくて同居なんです〟なんて誰も信じないわよ」
「住まわせていただいている代わりに私が食事当番をしているだけの話です」
「それだけなの? 本当に?」
まだ疑っている様子の矢田さんは「でもさぁ」と納得いってなさそうな声を出す。
「たとえ副社長がめちゃくちゃ人がいいとしても、なんとも思っていない異性と一緒に暮らす? しかも立場がある人なのに」
「それは……」
『なんとも思っていない異性』という言葉に、なんとなく声が引っかかってしまい変な間ができてしまう。
成宮さんに告白されたことをいちいち言うつもりはない。
それでも、〝優しい人だから、なんとも思っていない私の面倒を見てくれてる〟と嘘をつくのは、成宮さんがしてくれた真剣な告白を否定しているようで、返事に困っていたとき。
「……あ。内線。私でますね」
タイミングよく内線が入った。
むーっと不満げに口を突き出していた矢田さんだったけど、私が受けた内線が棚田さんからだとわかった途端、すぐに同情するような笑みを浮かべた。
〝ドンマイ!〟とクチパクで告げられる。