過保護な御曹司とスイートライフ
電気ケトルで沸かしたお湯を、インスタントコーヒーの入ったマグカップに注ぐ。
ふわっといい香りが部屋に広がるのを感じながら、それを持ち、ローテーブルの上に置いた。
「コーヒーしかないんですが、よければどうぞ」
ソファに座った成宮さんは「ああ、もらう」と笑顔を浮かべて、マグカップに手を伸ばす。
ボタンひとつ開けたYシャツに、スーツ姿の成宮さんがマグカップを口に運ぶのを眺めてから、私もコーヒーをひと口飲む。
早起きの人たちの生活音がアパート内外からわずかに聞こえるなか、マグカップを置いた成宮さんが「これ」と胸ポケットから封筒を取り出した。
見覚えのある茶封筒は、私が朝、ホテルのベッドサイドに残したものだ。
「もしかしなくても、足りなかったですか?」
事前に封入したお金は三万円。それでも、あんな部屋に連れて行かれちゃったからと、朝二万を足して部屋を出たけれど、不足分があったのかもしれない。
そう思い「おいくらですか?」と聞くと、成宮さんは「いや、いらない」とハッキリと言った。
「いえ。そういうわけにはいきません。私がお願いしたことですし」
「俺は、金を提示されて応じたわけじゃないし、もとからもらうつもりなんかないから受け取れない」
「……行為についてはそうだとしても、部屋代は別ですから」
なんとなく気恥ずかしくなりながら言う。
成宮さんは私をじっと見たあと、やっぱり首を振った。
「だったら尚更いらねーよ。俺、あの部屋に半分住んでるようなもんだし。昨日、特別にとったとかじゃないから」
「……ホテル住まいなんですか?」
しかも、あんな高級ホテルで?
一泊の宿泊費でこの部屋の一ヶ月分の家賃が払えそうだ。