過保護な御曹司とスイートライフ


用件は、第一会議室の片付けだ。パソコンで予約表を確認すると、用途は他会社との打ち合わせだった。

〝NR&T〟は、この会社の傘下で、ここにもよく出入りしている会社だ。

棚田さんにぐちぐち言われる口実を作りたくはないし、会議が終わったってことならすぐに行っても問題ないだろうと思い、矢田さんに告げてから第一会議室に向かった。

まだいたら嫌だなぁと思いながら開けたドア。

「失礼いたします」

室内では予想通りというか、棚田さんがひとりでスマホをいじっていて内心げんなりとしてしまう。

傾いた夕日がブラインド越しに差し込み、部屋はオレンジ色に染まっている。会議が終わったからか、電気はもうついていなくて薄暗い。

私に気付いた棚田さんに不愉快そうに「っち」と舌打ちされ、いつもとは違う対応にあれ?っと思う。

棚田さんは私たち受付を馬鹿にして見下しているから、嫌味を言うにしてもいつもニヤニヤしているのに、こんな顔は珍しい。
機嫌でも悪いんだろうか。

だったら下手に刺激することもない。さっさと片付けを済ませてしまおうと、手始めにテーブルの上にあるプラスチックの容器を回収していく。

二層でできている容器のカップ部分をゴミ袋に、そして持ち手部分のプラスチックは洗って再利用するからトレーの上にと分別していたとき。

「鈴村さんさぁ、なんかいらないこと言っただろ」

そんな声をかけられると同時にうしろに立たれ驚く。
振り返ると、一メートルも離れていない距離に棚田さんが立っていた。

睨むような眼差しに眉を寄せる。

「いらないこと?」
「そう。俺、副社長から直々に注意受けたんだけど。女性社員に対しての言動があまり好ましくないだとかで。それ告げ口したのって鈴村さんだろ」





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