過保護な御曹司とスイートライフ
告げ口……というのかは分からないけれど、成宮さんに言ったのは事実だ。
だからなにも言えずにいると、それを肯定と取った棚田さんは眉間にシワを寄せ私を見下ろす。
棚田さんは高身長なわけじゃないけれど、十センチ上からでも睨まれると怖さを感じた。
薄暗い密室ということも手伝ってか、心臓がバクバクと嫌な音を立て始める。
もともと細い目はより細められ、気に入らなそうに私を見下ろす。
「俺は当たり前のことしか言ってないんだよ。それをさぁ、まるで被害者みたいな感じで上に言われても迷惑なんだけど。つーか、卑怯だと思わないの? そうやって自分が女だってことを利用して上に泣きつくとか。
痴漢の冤罪とかあるけどさぁ、俺、まさにあんな気分だわ。なにも悪いことしてないのに、自意識過剰の女が急にわめき出した、みたいな」
一歩、また一歩と近づいてくる棚田さんに、私も距離を保つように後ずさる。
じりじりと逃げ場が奪われていく焦りが、呼吸を震わせていた。
「そんな言い方はどうかと思います。冤罪もあるのはわかりますが、実際に痴漢するひとがいるのも事実です」
棚田さんが目を見開く。
この状況で言い返されるとは思っていなかったんだろう。
「棚田さんが今まで言った言葉の中に事実もあったのかもしれませんけど、わざわざ言わなくてもいい事実があったのもたしかです。仕事に関係ない部分で他人を乏しめるのは間違ってると思います」
大人しく黙っていたほうがよかったのかもしれない。
〝覚えがありません〟って突き通せば、それでもよかったのかも。
だけど、焦ったときにはどうしても口が回ってしまうクセはどうにもならなかった。
棚田さんへの不満がたまっていたせいもあるんだろう。
家族や辰巳さん相手なら我慢しなきゃと抑えられるのに、最近は成宮さんとの生活に慣れてしまっているからか制御が利かなかった。