過保護な御曹司とスイートライフ
「私もう、成宮さんの前では好き勝手してますよ。だって成宮さんは私がなにを言っても、きちんと温度のある態度を返してくれる。だから、安心してなんでも言えるしどんな顔だってできます。口喧嘩なんかしたの、成宮さんが初めてなんですから」
ドライヤーをすぐにかけないとか、横着すぎるとか。小さなことで揉めたのなんて初めてだ。そして、それが楽しいと思ったのも、もちろん初めてだった。
このマンションで過ごすようになってから、成宮さんが私にくれた感情はたくさんすぎて並べられない。
そのひとつひとつがキラキラしていて、私にはもったいないほどだ。
「それと、慶介さんのことですけど。成宮さんが信頼を置くひとだから、私も安心して泣いたんです。だから、私が一番頼りにしているのは――」
言い切る前に、顎を持ち上げられそのままキスされる。
「鈴村……」
掠れた声で呼ばれ、唇を柔らかく啄まれる。
成宮さんの声や仕草から気持ちが伝わってくるようで、気づいたら頬を温かい涙が伝っていた。
階数ボタンを押していないエレベーターは、そのまま動くことなく留まっていた。どこにも辿りつけず宙ぶらりんで、いつ、破られるかわからない密室はまるで今の私の状況みたいだった。
――この生活がいつまでも続けばいいのに。
そんな甘い願いは、この数日後くだかれることになる。