過保護な御曹司とスイートライフ
あまりに自分の暮らしとかけ離れすぎていて顔を歪めると、成宮さんは「まぁ、家庭の事情ってやつで」と軽く言った。
〝家庭の事情〟と聞き、それまで、あんな高級ホテルに住んでいるなんて信じられないって気持ちでいっぱいだった頭が冷静になっていく。
それぞれに家庭の事情があるのは当然だし、今の言葉は配慮にかけていたかもしれない。
私だって、〝家庭の事情〟から、昨日あんな行為に走ったんだから。
「すみません。込み入ったことを聞いてしまいました」
ぺこりと頭を下げた私に、成宮さんは「いや、全然」と、なんでもなさそうな声で言った。
それから少し言いづらそうに「込み入った話を、俺もしにきたんだし」と言う。
私と成宮さんの間に、込み入った事情なんてない。
なにしろ、出逢ってまだ一日も経っていないんだから。
不思議に思いながら待っていると、成宮さんは、開いた膝にそれぞれの肘を乗せ、少し前屈みになった状態で私を見た。
私はラグマットの上に座っているから、見下ろされるかたちになる。
「初めてだって、なんで言わなかった?」
「初めて……」とこぼして、ようやくなんのことを言っているのかを理解する。
それと同時に気恥ずかしさを感じ、目を伏せた。
成宮さんは、私に経験がなかったってことを言っている。
昨日、シーツに残してしまった跡とか、感覚とか……そういうもので分かったんだろうと思うと、恥ずかしい。
「ワケありだとか言ってたけど、そういう意味か? 早く初めてを捨てたいとか、変な考えが女にはあるって聞いたことがある」
「……なんだか、本当に込み入った話ですね」
誤魔化すように少し笑うと、成宮さんはそれを目元に寄せたシワだけで咎める。
それから、ガシガシと髪をかいた。