過保護な御曹司とスイートライフ
〝副社長って、受付の鈴村さんって子と同棲してるらしいよ〟
そんな噂はすぐに広まり、食堂や更衣室に行くたび、視線が刺さるようになったけれど、そこまで気にしていなかった。
受付は他の部署とはあまり関わりもないし、知らない社員にどう思われてどういう目で見られても、そんなに気にならない。
私は私の仕事をするだけだ。
そんな風に考えていたけれど……それが甘い考えだったというのを私が思い知ったのは、成宮さんの部屋にお世話になって二十日が経った頃だった。
仕事を終えマンションに戻り、これから夕食の下ごしらえでもしようと思っていたとき、インターホンが鳴った。
エントランスからじゃなく、玄関前からのチャイムのようで、少し驚きながらドアホンに近づく。
成宮さんなら当然インターホンなんて鳴らさないし、慶介さんも合鍵で堂々と入ってくる。
とりあえず、エントランスは、他の入居者がロックを解除したときに一緒に入ってきたとして……一体、誰だろう。
他に考えられるとすれば、宅急便とかだけど……この二十日間、届いたことは一度もない。
インターホンに出る出ないは別として、とりあえず誰かだけ確認しようとドアホンを覗き……液晶画面に映っている人物を見た途端、時間がとまった気がした。
なんでここがわかったんだろう……と自然と疑問が浮かんだと同時に、ドクドクと心臓が不穏な音を立て気持ちを急かし出す。
一瞬にして現実に戻された私は、まるで成宮さんがかけてくれた魔法が解けたみたいだった。
ふらっとした足取りで玄関に向かう。無視するなんて選択肢を、私は持っていなくて……行きたくなんてないのに身体が勝手に玄関に向かう。
……まるで、足に巻きついている見えない鎖を引っ張られているように。
この扉を開けたらもうここには戻ってこれないことはわかっていたけれど……それでも、居留守を使うことはできなかった。
私は、この人を無視したりできないように育てられてきたから。最優先させなきゃと、無意識の部分で考えが働いていた。