過保護な御曹司とスイートライフ
「鈴村……っ、待てって言ってんだろ……!」
さっきまで遠かったはずの声に、至近距離から言われ……ぐっと奥歯を食いしばる。
このまま別れたら、成宮さんにだって迷惑をかけずにすんだのに……なんで……っ。
ゆっくりと振り向くと、成宮さんは肩で呼吸をしていた。
走って追いかけてきてくれたのか……と、成宮さんの真剣な顔を見て、胸の奥が鳴く。
強引に私を立ち止まらせた成宮さんは、私の腕を掴んだまま辰巳さんを見る。
まだ、息が荒かった。
「せっかく迎えにきてもらったところすみません。鈴村はまだ研修中でして」
ニッと口の端を上げて嘘をついた成宮さんに、辰巳さんは小さく息をついてから話す。
成宮さんも辰巳さんも、もう、お互いが誰なのか、そして今どんな状況なのかわかっているみたいだった。
「成宮さん……でよろしいでしょうか。この期に及んでまだそんな嘘が通用すると、本気で思っているわけではないでしょう? そもそも、二十日間も彩月を監禁しておいてよくそんなことが言える……」
「監禁じゃないですよ。鈴村は自分の意思で俺の部屋にきたんですから」
ピシャリと言い切った成宮さんに、辰巳さんの瞳がすっと冷たく細められる。
辰巳さんにしては珍しく、眉間にはわずかなシワが寄っていた。
「つまり、成宮さん自身には責任はないと?」
「そうじゃありません。鈴村は立派な成人女性です。そんな鈴村が自分の意思で俺の部屋にいた。ただそれだけのことでしょう。そこに、家族でもなんでもないあなたが口出しする権利なんてないってことが言いたいんです」
ピリピリとした緊張感が張り詰めた空気のなか。沈黙がしばらく続いたあと、辰巳さんがふっと表情を緩めた。
「まぁ、そうですね。俺は〝まだ〟彩月の家族ではない」
「ですよね。ってことで、お引き取り下さい。……ああ、鈴村の荷物は預かりますよ」
成宮さんが手を差し出すと、辰巳さんは少し間を空けたあと私のバッグを渡す。
そして私に視線を移すと「また来るよ。彩月」と目を細め告げた。