過保護な御曹司とスイートライフ
辰巳さんと来た道を、成宮さんと戻る。
成宮さんの手には私のバッグが持たれていて、まるで初めてこのマンションに来た日みたいだった。
ふたりして黙ったままエレベーターに乗り、部屋まで戻る。
そして、私のバッグをソファに置くと、成宮さんが笑いかけてきた。
「なんか、初めてここに来た日みたいだな」
さっき、私が考えていたことと同じことを言った成宮さんが、バッグの横にドカッと座るから……顔をしかめる。
「スーツ、しわになります」
いつもいつも、何度注意してもスーツのままくつろごうとするから、今日も呆れながら言うと、成宮さんがふっと表情を緩める。
リビングに入ってすぐのところに立ったままの私を、成宮さんが嬉しそうに見るから不思議に思っていると、不意に「おまえのその言葉がまた聞けてよかった」と告げられる。
その言葉に目を丸くしている私をじっと見たあと、成宮さんが続ける。
「焦ったら負けだと思ったから、平然として見せてたけど……正直、結構ビビってた。あいつと離れていくおまえの姿見かけて……どうしようって焦った」
わずかにうつむき目を伏せた成宮さんに、涙が込み上げてくる。
零れ落ちないようにと我慢したそれがどんどん胸から喉までを詰まらせるから、呼吸がヒュッと変な音を立てる。
「なんであいつがここにいるのかって考えて、会社で俺がバラしたせいかって思った。それで調べて連れ戻しにきたのかって……考えてみれば、おまえあいつに電話したあと微妙な顔してたし、もしかしたら鈴村はあの時からこうなることを予想してたのかもしれないって。……悪い。俺が考えなしだった」
会社でバラしたことを謝っているんだろう。
でも、別に成宮さんが悪いわけじゃないと黙って首を振る。