過保護な御曹司とスイートライフ
「柊哉さんとはきちんと上手くやってる? ダメよ。面倒をかけるようなこと言ったりしたりしたら。彩月の態度で柊哉さんが機嫌を損ねたりしたら、あなたたちふたりの問題だけじゃ済まされないんだから」
〝うん〟とは頷けない注意をされ、曖昧に笑い、紅茶に手を伸ばす。
「辰巳さんは、たとえ私とケンカしたりしても、それを仕事に響かせるような人じゃないよ」
〝ふたりの問題じゃ済まされない〟っていうのは、仕事にも響いてしまうって意味なんだろうと思い言うと、目つきを厳しくされる。
「そんなことわからないでしょう。本当は、もっと早くに彩月にこういうことを注意しておきたかったのよ。でも、ここに来るときはいつも柊哉さんが一緒だし、電話しようにももしも柊哉さんが一緒だったらと思うとそれもできないしで……本当に気が揉めてたのよ」
はぁ……と重たいため息を落とされ、こちらまで気分が沈んでしまう。
今日、ここに来ようと思ったのは、辰巳さんの話を少し聞きたいと思ったからだったけれど……そんな雰囲気ではなくなってしまっていた。
お母さんは一度、こういう愚痴のスイッチが入ってしまうと止まらない人だから。
小さい頃にもよくこんなことがあったなと思い出す。
『いい? 私がいうことにはうなづきなさい。手を焼かせないで』
『なに泣いてるのよ……はぁ。本当に面倒くさいわねぇ』
昔のことを考えているうちに、不意にそんな声がよみがえる。
それと同時に両親のしかめられた顔が浮かび……これはいつの記憶だっけ?と疑問に思っていると、お母さんが言う。
「柊哉さんは、顔を合わせるたび、彩月のことを褒めてくれるけど……本心はわからないじゃない。いつ、切られるか分からないんだから、そうされないようにきちんと柊哉さんに尽くさないと」
「……どうして、そんなに辰巳さんに気を遣うの?」
婚約者なら、立場は同じはずだ。別に、使用人として雇われているわけじゃないんだから、すべて辰巳さんの顔色を窺いながら過ごす必要なんてない。