過保護な御曹司とスイートライフ
私が辰巳さんに逆らったりできないのは、あの人の雰囲気に押されてってだけで、本来ならケンカだってしていい仲だ。
それなのに、さっきからお母さんは辰巳さんにすべて従えとでも言いたそうだから、不思議に思い聞くと、「当たり前でしょう」と呆れたように言われる。
「彩月は、うちを代表して辰巳さんの家に入るんだから。失礼があったりしたら、絶対にいけないの」
嫁ぐってことは、そういうものだとも捉えられるけれど……それにしてもと、少し引っかかる。
〝代表〟って、どういう意味だろう。
「だから、会社なんて辞めて花嫁修業しなさいってずっと言ってるじゃない。なのに彩月ときたら、全然聞かないし……柊哉さんも〝彩月の好きにさせてあげてください〟なんて言うから、強く言えないできたけど」
「え……辰巳さん、そんなこと言ってくれてたの……?」
知らなかった事実に驚くと、「そうよ」と嫌そうな声でうなづかれる。
「うちはもう、去年の末あたりからずっと、花嫁修業させたらどうかって提案してたのよ。でも、柊哉さんが、彩月が望まないのに可哀想だって言ってくれて……ダメよ。柊哉さんを困らせるようなこと言っちゃ。うちの立場も考えてちょうだい」
お母さんの言葉に、思わず言葉を呑む。
だって……そんなこと知らなかった。
辰巳さんが陰で私の味方をしてくれていたなんて、今、初めて知った。
でも、考えてみれば花嫁修業だとか結婚っていう単語を出すのは両親ばかりで、辰巳さんからは急がせるようなことはなにひとつ言われていないかもしれない。
『彩月は、したいようにするといいよ』
いつだって……私の意思を尊重するようなことを、言ってくれていた。
ずっと、両親と辰巳さんを一括りにしか考えられずにいたけれど……ここにきて、初めて辰巳さんは両親とは違う意見を持って接していてくれたことに気付く。