過保護な御曹司とスイートライフ
「柊哉さんだって、お付き合いしてる方がいたみたいなのに、彩月との縁談を受けてくれたんだから……本当にしっかりして欲しいのよ。お願いだから失敗したりしないで」
カチャリと紅茶のカップを置いたお母さんに「お付き合いしてる方って……」と声を漏らすと、「ずいぶん、昔の話だけどね」と言われる。
「あれだけの外見だもの。そりゃあ、恋人だっているに決まってるじゃない。でも、彩月との縁談が決まって、彩月が十六歳の誕生日を迎えた頃、別れたって話よ。きちんと彩月と向き合うためにって」
「付き合っている人がいたのに、なんで縁談なんて受けたの……?」
私と同じように、受け入れざるを得ない空気にされたからだろうか……。
でも、辰巳さんだったら反対だってできそうなものなのに……と考えていると、お母さんが苦笑いを浮かべる。
「それは、だって……」
でも、答えを言う前に口をつぐんでしまった。
ハッとしたような顔をされて不思議に思っていると「とにかく」と話を強制終了させられてしまう。
「本当にあなたには勿体ないくらいの方なんだから、それをちゃんとわかってくれないと」
なにかを隠されたように感じ黙った私に、お母さんは繰り返し「柊哉さんの機嫌を損ねないように」と注意していた。
私が実家に立ち寄ったのは二時間弱だったけれど、その中で私の体調や仕事を気にするような言葉はひとつもなく……お母さんから一方的にされる話題は辰巳さんの話ばかり。
それに気付いてしまった途端、漠然とした違和感を感じた。
違和感……なんだろうか。ずっと気付かなかったことに気付きかけているような、すぐそこに答えがあるのに手が届かないような、そんなもどかしさが私の中で渦巻いていた。