過保護な御曹司とスイートライフ
――もしかして。
そう一度引っかかってしまったら、もう簡単だった。今まで重ねてきたモノがドミノみたいにパタパタと倒れていく。
ああ、なんだ……と思うくらいでたいしたショックも受けなかったのは、私自身最初からそんなもの望んでいなかったからかもしれない。
〝泣くな〟〝いうことを聞け〟と冷たく言われたときから、きっとそうなんだろうなって気付いてたんだ。
それなのに漠然とさせたまま追及しなかったのは、心のどこかでもう諦めていたからかもしれないし……それを辰巳さんが必死に私から隠そうとするから、気付かない振りをしていただけかもしれない。
「成宮さん。私、辰巳さんと話したいことがあります。明日の土曜日、出かけても大丈夫でしょうか」
金曜日の朝食の席でそう切り出すと、成宮さんはじっと私を見つめたあと「ああ」とうなづいてくれた。
けれど、ふたりきりで会うというところにどうも納得いかないようで。
「いいけど、ここで会うんじゃダメか? できるなら俺も同席したい」
そう言ってきてくれた成宮さんに、微笑んでうなづいた。
辰巳さんが部屋を訪れたのは、十四時。
手土産に持ってきてくれたケーキと入れたての紅茶をローテーブルに置くと、辰巳さんはにこりと綺麗な笑みを作り「ありがとう、彩月」とお礼を言った。
「いえ。私の方こそありがとうございます。ここのケーキ、好きだって覚えてくれていたんですね」
辰巳さんが持ってきてくれたのは、一度お土産でもらったときに私が気に入ったものだった。
特別おいしいと騒いだわけではないのに、私の表情からそれに気付いてくれたんだろう。
辰巳さんはいつだって異常なくらいに私の感情を読み取ろうとしてくれているから。