過保護な御曹司とスイートライフ


「おまえがそうしろって言ったんだろ」
「抱いてほしいって言われたら、全員抱くんですか? いくら頼まれたからってあんな、道に落ちてたような危ない女を善意で抱くなんて成宮さんこそ危機感が足りないんじゃないかと思います。そもそもそんな女に自宅同様に使っている部屋をバラすとか……」

「なに……おい、急にどうした? 落ち着けよ」

突然、ぺらぺらと話し出した私を、成宮さんがキョトンとしながらも制止するから、はぁ……と息を吐き気持ちを落ち着かせる。

パニックになると、なんでもいいから話していないと落ち着かないのは、昔からのクセだ。

でも、遠慮があるせいか家族にも見せていない部分だし、そもそもそこまでパニックになることも少ない。
……さっきの玄関での押し問答といい、成宮さんといると心が忙しいなと思い、ふっと息をついた。

心が騒がしいけれど、でも、嫌な感じがしないのは成宮さんの醸し出す柔らかい空気のせいだろうか。

不思議に感じながらも、まだ驚きを瞳に浮かべている成宮さんに謝る。

「ごめんなさい。今混乱してて……。頭のキャパが小さいのか、混乱すると言葉がばーっと溢れてきちゃって」

説明すると、成宮さんは納得したみたいに表情を緩める。
きっと、豹変とまではいかなくても急に話し出した私が不気味だったんだろう。

「ああ、混乱すると口が回るタイプか」
「すみません」
「いや、気持ちはわかるし。器用じゃねーのに、吐き出せなくて頭に詰め込むタイプだろ? 俺も結構そうだから」

カラッとした、夏の空みたいな笑顔からはそんな風には思えないけれど……。
ホテル生活しているってことだし、色々あるんだろう。

「そうなんですか」と相槌を打ち、コーヒーのカップに手を伸ばすと、成宮さんも同じようにする。

「その前に、おまえの場合、全然混乱してるようには見えないけどな」
「無表情は得意なんです」
「みたいだな」



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