過保護な御曹司とスイートライフ
ずっと逆らえないと思っていた辰巳さんは……魔物なんて思っていた辰巳さんは、なにひとつ悪くなかったんだ。
それを確信し、笑顔を向けた。
「母は、辰巳さんの機嫌を損ねないようにって、それだけ言ってました」
私の答えを聞いた辰巳さんは、すぐに優しい笑顔を取り繕う。……私の為に。
「彩月のことは、俺が小まめに伝えているからね。わざわざ彩月に聞かなくてもいいくらい、細かいところまで」
「……だから、母が私の心配をなにひとつしなくても愛されていないわけじゃないんだって、辰巳さんはそう言いたいんですよね」
静かに告げると、辰巳さんはまるで時間が止まったように動きを止め、そして、顔を強張らせた。
「両親が私を仕事上の駒だとしか思っていないって、私が気付いてショックを受けないように……辰巳さんはいつも私が勝手に実家に帰らないように見張ってた。
だから、私が実家に戻るときにはいつも忙しい時間を縫って同行して、両親の発言が私を傷つける方向に向かないようにしてた」
両親の前で、辰巳さんはいつも私のことを褒めてくれていた。
こんな気遣いをされて助かっただとか、仕事も頑張っているみたいだって。辰巳さんの口からそう話しておけば、両親は安心するとわかっていたからだろう。
そして、陰では両親に、私の好きにさせてあげて欲しいって頼んでくれていて……両親が結婚結婚と急かさないように配慮してくれていた。
全部、私のためだったんだ。
それがわかり、くしゃりと目元を歪めると、辰巳さんはそんな私を見て呆然として……それから、ソファの背もたれに背中を預ける。
私が全部気付いたと悟ったんだろう。
前髪にくしゃっと手を差し込んで持ち上げた辰巳さんが、諦めの浮かんだ瞳を伏せ、微笑む。