過保護な御曹司とスイートライフ
「彩月はもう気付いているだろうから言うけれど……俺と彩月の縁談の裏には政略がある。早い話が、傾いた会社経営をどうにかするために協力して欲しいと、彩月のお父さんが俺の父に頼み込んできて……それにうなづく代わりに彩月を差し出すと、そういった話だった」
辰巳さんの視線がちらりと私を見る。
きっと傷ついていないかどうかを探っているんだろうというのがわかり、微笑みを浮かべてうなづいた。
大丈夫。私は、辰巳さんの口から出た言葉ではきっと傷つかない。
「差し出すって……そんな、物みたいにやれるもんでもねーだろ。それに、こいつの両親はそこまでひどい親ってわけでもないんだろ? 多少、怒鳴ったりしてたみたいだし、それがトラウマにはなってるみたいだけど」
納得いかなそうに言う成宮さんに、辰巳さんは目を伏せ「俺にはそうは思えない」とハッキリと否定した。
「自分の会社のために、彩月を平気で犠牲にできる親がひどくないハズがない。縁談の話が出たとき、彩月がいくつだったと思う……? まだ中学生の女の子の人生を、会社のために売るような親を、どうしてひどくないと言える」
辰巳さんの声はいつも通り穏やかだったけれど……嫌悪感が滲んでいるからだろうか、とても冷たく聞こえた。
「政略結婚だということを、彩月は知らされていないようだった。最初はなにも説明しない彩月の両親に腹がたったけれど、次第に彩月は知らなくていいと思うようになっていった。そうすれば、彩月は両親に駒として使われたことにショックを受けずに済むし、両親との関係も良好のままですむ。
なにも知らずに俺のところに嫁いでくればいいと思っていた。そうすれば、俺が意地でも幸せにしようって……」
そこまで説明した辰巳さんは一度黙り……しばらくしてからゆっくりと口を開いた。
「俺は結構、ひねくれた子どもだったんだ」
困ったような微笑みを浮かべながらの言葉に、成宮さんは「まぁ、そんな感じだよな」とうなづくから、その膝をぺシンと叩く。