過保護な御曹司とスイートライフ
『家族だって言ってたくせに。自分たちの立場を守るためなら平気で殺す。結局、弱い者が被害者になるんだって思い知った。たとえば、俺が犯罪に手を染めたら、実の息子の俺でも切り捨てるんだろうな』
『周りに白い目で見られたとしても、家族なら乗り越えて行けるなんていうのは、甘い考えなのかな。シロは……本当ならまだ生きられたのに。俺たちが守ってやらなければならなかったのに。家族に殺されたシロは……どれだけ悲しかっただろう』
きっと、泣きたいくらいに苦しかったはずなのに、それでも微笑みを浮かべようとしていた辰巳さんを、今でもしっかりと思い出すことができた。
その時の感情までよみがえり、悲しさから眉を寄せる私を見た辰巳さんが、優しく目を細め……口を開く。
「あの時、俺がいくら騒いでも両親は〝仕方ない〟の一言で片付けた。誰も俺の悲しみに寄り添ってくれないなか、彩月だけは違った。
俺は、あのとき彩月と一緒に泣けたから救われたのに、そんな彩月が……優しい心を持っている彩月が、大人の汚い事情で将来を決められるなんて許せなかった」
ギリッと奥歯を噛みしめた辰巳さんが、眉を潜める。
嫌悪に満ちたその表情は、十年以上付き合いのある私でも初めて見るように険しくて……それだけ辰巳さんの怒りが深いのだと感じた。
「会社同士で、薄汚れたやりとりがあることは知っていたし、会社を維持するためには必要なことなんだとも思っていた。でも……娘でさえ、取引の道具にするという考え方はさすがに賛同できなかった。
あの、ひとのよさそうな彩月の父親でさえ……目の前で簡単に交わされた約束に寒気がしたよ」
そう話した辰巳さんが、一呼吸おいてから静かに言う。
「まるで、シロの処分を決めたときみたいだった」
その言葉だけ、他とは重力が違うみたいに重たく感じた。
悲しく響いた声に唇を引き結んでいると、私が太腿の上に置いていた手を成宮さんが握る。
ハッとして見上げると、成宮さんが心配そうに見ていたから、大丈夫だとうなづいて見せてから、私も手を握り返した。