過保護な御曹司とスイートライフ


両親から特別な愛情を注がれていないと気付いたのは、たぶん、随分前だ。お父さんもお母さんも私の前で平気で怒鳴り合いをしていたし、止めに入れば私にも怒鳴った。

お父さんの腕にしがみついたのを振り払われて怪我をしたときも、両親は私の心配なんてしないでケンカを続けていたから、私が病院に行ったのは翌日だ。

それも、学校にそのまま行くのは世間体的にまずいから……という理由からだったのは、病院に付き添うお母さんの横顔からわかっていた。

『忙しいのに、面倒かけないで』

待合室で、お母さんは心底嫌そうに私に言った。

両親とも、私が意思を持ってなにかを発言することを嫌がっていたし、〝おまえはただ大人しくしていればいい〟とよく言われていた。

だから、私はずっと本当は愛されていないと知っていたのだけど……それを私自身認めたくなかったし、中学に上がった頃からは、辰巳さんも〝そんなことないよ〟っていつも守ろうとしてくれていたから、見ない振りをしていたんだ。

認めてしまったら悲しくなるし、それに、辰巳さんが必死に隠そうとしてくれているのをどこかで知っていたから。

だから、私は今日までなにも知らない振りでこられたんだ……と気付き、その事実がストンと胸に落ちる。

辰巳さんの異常なまでの過保護さは、私を両親から守るためだったのかとようやく納得がいった。

じっと見つめる先、辰巳さんは膝の間で組んだ指を組み替えながら続ける。

「会社経営者なんてみんなそうだと思うのは充分だった。どうせ、俺のところとの縁談が成立しなければ、彩月は別の会社との取引に利用されるのかと思って……俺から話を受けた。
これ以上、彩月がただの駒みたいに扱われるところを見るのは耐えられなかったんだ」

「辰巳さんは、今まで一度も私の前で声を荒げたりしませんでしたけど……それも、私に気を遣ってくれてたからですよね?」

聞くと、辰巳さんは困ったような微笑みで答える。


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