過保護な御曹司とスイートライフ
「彩月のご両親がよく怒鳴り合いのケンカをしているのは、彩月から聞いて知っていたからね。彩月が嫌な思いをしているのも知っていたし……本当なら彩月のご両親に怒鳴ってやりたいことは何度かあったけど、グッと耐えた。
俺まで彩月を怖がらせたら、彩月に逃げ場がなくなってしまうから」
そこで一拍空けた辰巳さんが「でも」と私を見る。
「結局、彩月は俺を怖がってたみたいだけどね」
「あ……すみません、私……」
なにも知らなかったから……と言い訳をしようとすると、「いや、彩月は悪くない」と辰巳さんが遮る。
「あんな風に檻に閉じ込められたみたいな生活を強いられていたら、誰だって怖くなる。本当は、彩月に安心して過ごして欲しいだけだったのに……加減が難しいな」
自嘲するみたいな笑みを見つめていると、辰巳さんがその笑みをわずかに歪めた。
「年に何度か彩月の実家に行くのも、親孝行なんかじゃない。ご両親の言動から彩月を守りたいという思いと、ただ〝おまえらが道具としてしか扱わなかった彩月は、俺の隣でこんなに笑ってる〟っていうのを見せて知らしめたかっただけなんだ。
……後悔や反省をさせたかったのかもしれない」
辰巳さんはきっと、私に犬のシロを重ねていたように、私の両親に自分の両親を重ねていたのかもしれない。
ギリッと、見ている私まで苦しくなるような、ツラそうな笑みを浮かべた辰巳さんが私を見た。
わずかに涙が浮かんでいる瞳に、胸が張り裂けそうに痛んだ。
「目の届かない場所だと、彩月が誰に傷つけられるかわからないからって……囲ったけど。でも、手の届くところで飼い殺していたのは俺だったのかもしれない」
最後、掠れてしまった声に、どうしょうもないほど心臓が苦しくなり呼吸が震えてしまう。
ふるふると首を振るのに、声が詰まって出てこない。
違う。飼い殺されていたなんてことない。
なにも知らなかった私が勝手に不満を募らせたり怖がっていたりしただけで、辰巳さんは最初から優しかったのに……私だけを、気にかけてくれていたのに――。