過保護な御曹司とスイートライフ
「もう、大人なのに……いつまでも出逢った頃の彩月を見ていた」
私の瞳から涙が落ちると同時に、辰巳さんの頬を一筋の涙が流れる。
まるで、昔みたいだった。
「彩月を救いたいと思ったのに……これじゃあ、俺が幸せの邪魔をしているみたいだ」
「そんなこと……っ」
「本当は、もっと自由にさせて……彩月自身が傷つくことを知って乗り越えないといけないのに。すべてから守ろうとしてた」
そう、静かに話す辰巳さんに、それまで黙っていた成宮さんが言う。
「〝可愛い子には旅をさせろ〟ってやつ、本当なのかもな。少し自由にさせて無茶させとかないと、逆ナンなんていう暴挙に出るし」
しみじみ……といった口調で切りこまれた話題に、バッと成宮さんを振り返る。
しんみりしていた雰囲気を一気に変えられ、涙が引っ込んでいた。
「……急になに言いだすんですか」
なんとなく辰巳さんには知られたくなくて顔をしかめると、成宮さんは「本当のことだろ」とわからなそうな顔をする。
「おまえだって、普段から自由だったら男を誘おうなんて考えなかっただろ。あまりに押さえつけられてたからその反動で……って、おい、なんだよ、叩くな」
べしべしと太腿を叩いて抗議する私の手を掴んだ成宮さんが、辰巳さんに視線を移す。
「鈴村は言って欲しくないことみたいだけど、俺はアンタに話しておきたいから伝えておく」
その顔が真面目だから、すごいことをカミングアウトしてくれたのに、責められずググッと黙ると、成宮さんが話す。
「鈴村は最初、逆ナンして捕まえた俺にひどく抱けって言ってたんだ。大事にしてきてくれたアンタを裏切ることになるんだから、ひどくして傷つけて欲しいって」
どんな顔をして聞いているんだろう……とチラッと視線を移すと、辰巳さんはわずかに眉を寄せながらも真剣に聞いているようだった。
成宮さんがふざけて言っているわけではないと、わかっているからだろう。